事務所からのお知らせ

工文社「建築仕上技術2006年1月号」 巻頭言を執筆

このたび事務所代表取締役 佐野契が、(株)工文社発行「建築仕上技術2006年1月号」巻頭言を寄稿いたしました。以下に原稿を紹介いたします。

少子化・高齢化における建築・都市・社会

世界の先進国において少子化が進んでいることは言うまでもない。日本の出生率は先進国の中でもイタリア・ドイツについで低い数字である。イギリス・フランス・北欧諸国、ロシアもそうである。アメリカは移民を受け入れている為、出生率を依然キープしている。

問い尽くされてきたが少子高齢化はなぜ起きるのか。

ひとつは子供の経済的メリットの低下である。以前は老後を経済的に子供が面倒を見ていたが現在それを当然と思う子親共に減少している。それどころか30代になっても親が子へ援助する実態が多い。「パラサイト・シングル」の増加もそれであるがこれは就職後も親元を離れず収入を全額自分のことに使っている男女である。

もうひとつは結婚が損と考えられるからである。男性は結婚に対して経済的負担及び自由の制限を感じている。女性はかつては生きる為に結婚したが今では経済的に自立可能だ。楽しく生きるためには結婚も子供も時間の束縛となるからである。また「バービー症候群」という言葉も最近耳にする。家事は母親に任せ収入は自分で使う、結婚願望はあるが生活水準は下げたくない為、それを可能とする王子様を待つタイプの女性である。

少子高齢化の背景にはどのような社会的変化があったのか。

日本社会の変遷を大雑把に見ると1960年頃は工業化社会であり、賃金労働で収入を得る国民が大半である。2000年になると脱工業化社会へと変化しており、報酬による収入を軸としたデザイン・執筆、コンサルなどサービスを主体とした人々の割合が多くなっている。脱工業化社会では子供の教育に時間と金が掛かる。人々は職業に生き甲斐を求め、様々な娯楽が都市に存在する。いずれも先進国の発展段階における状態と考えられる。

脱工業化社会で求められる建築はどう変わったか。

家族形態の変化に伴い、個室群化していると考えられる。「個室群」は難波和彦先生の著等に出てくるが家族の単位がもはや核家族ではなく個人ひとりになっており、そこでは2.3LDKは必要なく1DKでよいのである。その集積がシングルマンションであり、都心部で多く見られる。介護付きマンションも介護を軸とした個室群と言えるかもしれない。用途的に見てもデザイン・執筆などの自営が多くなり、住居とオフィスが一体となったSOHOの需要が増したと考えられる。都心のマンション需要の上昇は老後はマンションが楽という高齢者が多いという他、SOHO使用が増えている点も見逃せないのではないか。2007年問題を背景に郊外から戻る人は増え、老後といってもまだ若く、もう一度ビジネスを自宅で展開するSOHO希望者も増えているのではないか。

超少子化・人口減少になるとどうなるか。

人口分布はさらに都心部集中型になるのでしょうか。あるいは都心部において人口が減り建物が減り、公園と化すのでしょうか。ウイリアム・モリスは「ユートピアだより」を1890年に書いている。設定は2005年、まさに現時点である。そこで描かれている社会は通貨を利用しない、資本主義でも社会主義でもない世界である。都心の人口集中は無くロンドンは田園風景と化し、中世建築が住居になっている。モリスの期待した未来は新しい社会体制だけでなく、質の高い労働(アーツ・アンド・クラフト)がもたらす衣食住及び都市である。中世時代の良さ、現在で言えばスローライフ生活、その社会では労働は高い質に転換される。そこまでユートピア化するとは考えられないが現社会も徐々に質を追求するようになってきているのではないか。横道にそれるが「2001年宇宙の旅」(1967年)ではすでに宇宙ステーションができ、新しい都市が宇宙に広がっているはずであった。人口問題やエネルギー問題は宇宙開発競争に転換されるという構図であったが現実そうはなっていない。その中で当たっていることは中国対アメリカの構図だろうか。確か月の開発を中国対アメリカ+ソ連で競争する設定だったと思う。

現実社会に戻って考えてみると耐震偽装問題も世の中の時代の推移のひとつと言えるかもしれない。このような偽装や隠蔽といった体質は建築界だけではない。雪印問題に始まり、三菱自動車の隠蔽、道路公団談合などがあった。これらから考えると時代は「不正を許さない社会」になってきていると言えないだろうか。

正直は勝つなどというと以前はおかしいやつと思われたかもしれないが、社会全体が隠蔽や偽装に厳しくなってきている今、質が良いこと、正直であることは当然であり、改めて「正直者は勝つ」と言えるような気がする。

[2006.1]

月刊仕上建築技術1月号月刊仕上建築技術1月号