事務所からのお知らせ

佐野契が「OZONEビジネスセミナー」にて講演

弊事務所代表取締役 佐野契が「OZONEビジネスセミナー 多様化する生活者の価値観のための邸宅」にて講演いたしました。以下に講演内容を掲載いたしますので、ご覧ください。

時代が求める「邸宅」

私どもの設計事務所では邸宅らしい住宅を幾つか建てています。あるいはかなり変わった事例と言えるかもしれない。邸宅の定義など無いのだから。それらをお見せしながら話を進めましょう。

邸宅といってもいろいろな方向性があり、その中でも様式化されたものが事例として多いでしょう。

[写真1] は廊下であるが旧岩崎邸を参考にしたものです。(上野 忍不池)

旧岩崎邸は三菱財閥の屋敷で邸宅の中でも最上級のものと言えるでしょう。このような様式化されたものは施主の好みであり、設計以前より方向性が明快に決まっていると考えられます。

ではどんな施主か。

60歳以上の方、もう子供が自立した方か、あるいは一生独身ですという方の場合は完全な様式を望むと考えられます。家族が増える可能性にある方々は不確定 要素が多く、未来を予想した構成を考える、いわゆる未来予想の住宅であり、また、家族のためにこうしたら良いと考え主体性が弱くなると考えられます。それ に比べ前者の方々は現在において自分が良いと思うものを注文するのでストレートに個性が出ると考えられます。

稀なそして的を絞った的確な事例から紹介しましょう。

[写真2,3] はビクトリアン様式の若干イギリスカントリー化したものでイギリスのローラアシュレイのファブリックを使用した例。

ローラアシュレイのファンは決して多くはないものの固定化しています。様式ではないものというとモダニズム的な方向です。モダニズム派の邸宅で有名なものは安藤忠雄の近年の設計のものや槙文彦の洗練された白い住宅などが当てはまるでしょう。

モダニズムは装飾を否定する、無駄なものを排除する、あるいは合理性から思考したもので何も無いということゼロから出発して考えられます。それは主義・思想を表現しており、モダニズムは住むこと、生活することよりも主義・思想に重きを置いていると言えるでしょう。

それに対して様式とはなにか。

それは趣味、あるいは生活と考えられます。感覚的な好き嫌いで非常にわかりやすく、時代差、個人差が出るものと言えるでしょう。 [写真4]

絵画で言えば具象であり、一見すれば風景画は風景画とわかる緻密な写実的な絵が多いでしょう。それに対して抽象画は見てもわからない、その意味するものが 重要だと考えられます。住宅もそのものではなくその意味する思想が重要と考えられます。現在はモダンスタイルとなって様式化され、思想面を深く考えること はないでしょう。様式の場合はアーツ&クラフトのような職人技的な要素が歓迎されます。[写真5,6]


現在、漆喰職人は非常に少なくなっています。昔の工法で蔵を建てようとすると竹駒井の施工や下地乾燥の繰り返しで2年はかかります。日本左官連合の会長さんは東京ではナマコ壁を施工出来る職人は2人程しかいなくなったと語っています。 [写真7,8,9]

アーツ&クラフトはウイリアムモリスの提唱したもので、19世紀後半社会が急速に工業化し、生活で使うものも工業製品になっていった時期で、モノの質が落ちた、そうしたときにしっかりとした質を確保しようというムーブメントです。 質の高いものを作る ・使う ・生活する、中世に戻った生活を標榜するものです。

日本で言えば民芸、白樺派の柳宗悦や志賀直哉が民衆の中の芸術を発見しようとしていたもの、棟方志功も彼らに見出されました。 (日本では無名、1956ベネチアビエンナーレで大賞を受賞し、先に世界で認められる)

また、柳宗悦は白磁に観入れられ朝鮮から日本へ積極的に紹介しました。そのような質の高いもの、時間のかかったものを使うわけですから使う側も手入れや手 間も掛かるでしょう。建築も時間をかけて作ったもの、建築の工程が重視される傾向にあるのではないでしょうか。そういう点ではこのような様式建築の場合、 誰に頼むか、どこが作るのか、しっかりした職人が重要なポイントになります。

様式形の建築、装飾性の高いものの場合ガーデニングもセットで考える必要があります。ガーデニングは装飾の一部であり、生活の場でもあるからです。ガーデ ニングの先生とは2人程付き合いがありますが現在は相当忙しいらしいです。ハウスメーカーでも、屋上で本格的にガーデニングがされておりマンションでも共用部のバルコニーでガーデニングが可能という物件も多くなっています。[写真10,11,12,13]

それこそ邸宅の場合はガーデニングを本格的に出来る状態です。

イギリスではガーデナーと建築設計士がセットで動き住居設計を行います。庭園設計の比重が日本よりも高いといえます。 桂離宮なども庭園を先に設計し後にどこから眺めるかといった手法で設計されています。日本でも急速に庭園が本格的化すればガーデナーと設計士がともに提案 する家が増えるかもしれません。

庭も本格化すれば邸宅も本物になる、元々機能的に折衷しなくてもよいスペースを有している物件が多いのでチューダーはより本物に近づき、和室や古民家調は 本物らしく、いや、まさに本物が出来るのです。家も庭も本格的になる、いずれも手間がかかる方向であり、その手間がかかることに否定的でない、生活を支え る家事は無駄ではない、省力化しないという考えになるのではないか、そうでなくてはいけない、住めないと考えられます。

ここまでは様式と庭園の考えです。 ここからは特殊例、邸宅の機能に関してです。

[写真14,15,16]
邸宅は日常使用面積はセイゼイ30坪程度と考えられます。その他は何らかの趣味であるとか特殊限定空間と考えられます。今までお邪魔した家で数件プールが あるのでお望みの方は日本でもいらっしゃるようです。アメリカですとそこら中にあり、テニスコートもあります。邸宅のイメージはアメリカ生活への憧れでは ないでしょうか。1軒屋思考もアメリカのケインズが提唱し推進した「持ち家政策」を日本も導入したことに拠ります。そこで日本もアメリカに引継ぎコロニア ルタイプが住宅あるいは邸宅の典型例です。

コロニアルの繁栄は様式的であると同時に規則正しい窓の連続やシンプルな切妻屋根の構成がモダニズム側から見ても構成建築的で受け入れられたと考えられます。

[写真17,18]
レーサーの家ですが若干コロニアルタイプとなっています。大切妻の屋根や小さめの窓の繰り返しがそうであり、これで外壁が下見板張りであればコロニアルに なります。外見は住宅ですが内は全くの工場です。ホイスト・クレーン・リフト・防音室など、住宅で確認申請していますが全く住宅ではないと言えます。

[写真19,20]
こちらもオートバイレーサーの家なのですが1階部分は家というよりもガレージ・メンテナンス工場です。玄関の必要性が特殊であり、この上にRC外断熱のしっかりした住居があります。

[写真21]
ひとつ目は比較的普通のバスルームです。吉村順三のヒノキ風呂、ポカホンタスの別荘を参考にしています。

[写真22]
次は刳り貫き風呂で海外雑誌にも掲載されました。臼屋によるのみ掘りで製作されています。同様なものをハワイに設置しました。[写真23,24]

[写真25]
ワインは集める人は100本や200本すぐ溜めるのでその倍から3倍程度の容量のものを最初からケーブでつくるとよいと思います。現在別のワインセラーを やっていますが免震構造のワインセラーで美術館や博物館の美術品を守る方法を取っています。

北海道地震ではワイナリーが、新潟地震では酒蔵が共に相当の被害を被っており、価値の高いもの、もう無いものなどにはそれなりの対策を講じる必要があると思います。

ワインセラーは何も難しいものではなく、しっかりとした断熱が施されていればよいのです。一度おじゃましたワインの先 生の家など1万本程収蔵されているようでしたが、日本の古典的な蔵に壁掛けクーラーを設置し、温度設定しただけのものでした。それでも十分機能するようです。

[写真26]
躯体や仕上げ材の防振を考えた音響空間で見えない部分での本格的な仕様が必要です。

[写真27]
土地売買において日本では通常更地渡しが原則ですが既存の木が残っている場合があります。木を使うかどうかは次の住人の決定に任せ、なくべく更地にしない風習に変えたいものです。ここでは木を切らないということが建築の条件でした。

見た感じ木の貫通部分が一番難しそうですが木を生かすという根本的なことが困難です。根を痛めないよう工事前に手掘り して根の位置を確かめ、杭が根を避けるよう設計します。構造は杭の上に直接載っかりフーチングや基礎梁がない状態です。メンテナンス上ガラスの上に乗って も平気な強度を持たせています。飛び跳ねても大丈夫です。

[写真28左]
ガラス面を清掃するジェット噴射装置はスプリンクラーを改良したものです。

[写真28右]
照明は木から吊っており、ガラスハウス内部には光源が無い常態です。夜、照明をガラスハウス内部で点燈するとガラスの反射で外が見えなくなるためです。

[写真29]
ジェット噴射で清掃しているところです。大量の水が出るのでグレーチングで受けその水を木への潅水として使う水循環装置が付いていますここまでするとほとんど木を守るということが道楽じゃないかと考えられるほどです。 ガーデニングの先生にして言わせればイギリスでは既存樹を残すのは当然で、イギリスガーデニング界だったらまともに受け取ってくれ賞賛されると思うと言わ れました。

後半の説明は特殊事例で施主の趣味でもあり直接喜びを与えるものと考えられるでしょう。 それに対して前半の様式と庭園は毎日の生活スタイルだと思います。というのは邸宅と言うものは手間・隙・時間がそれなりにかかり、物が散らかったまま暮ら すようなスタイルではないのです。朝起きたら家の前を掃く、近隣の人に逢った挨拶をする、庭の水撒きをするなど必然的にすることが決まってきます。

また、ゆっくりと朝食を摂るといったことも自ずと決まってくることの一部です。というのも時間が無いから朝は抜くとか、昼はカップラーメンでいいとか、そういった生活ではないのです。

コーヒーも自分でミルで挽いて炒れる、いつもきちんと食事する、きちんとくつろぐ、きちんと寝る、もちろん、きちんと片付けるなど、極端に言えば家や庭と一緒に生きるための義務を果たすようなもの、そうした日常の義務に時間を掛け楽しみを見出せることが必要です。

社会の忙しさ引っ張られない生活をする人、そういうゆっくりと日常を楽しむ思考であること、邸宅はそういう生活を送る装置でもあり、住人にそういう生活を強いるものでもあるのです。

[2006.09]